星や星座の名前を冠した楽曲は数多く存在する。
例えば、冬の大三角は こいぬ座のプロキオン, おおいぬ座のシリウス, オリオン座のベテルギウス の3つから成る。プロキオンはあまり見かけないが、『シリウス』という楽曲はBUMP OF CHICKENや藍井エイル, 飯田里穂など多数のアーティストから発表されており、優里の代表作には『ベテルギウス』がある。星座名のオリオンについても、米津玄師『orion』, 中島美嘉『ORION』, 藤井フミヤ『Another Orion』など数多くの名曲があるほか、アニメ関連で言えばPrintempsから『NO EXIT ORION』が発表されている。
一転して、夏の大三角に関しては有名な楽曲がほとんどない。夏の夜は、星ではなく花火に恋心を乗せるといったところか。
ところで、冬, 夏以外に「春の大三角」があるのをご存知だろうか。しし座のデネボラ、うしかい座のアークトゥルスの2つはあまり有名ではないが、もう1つの星の名前はおそらく聞いたことがあるはず。「おとめ座のスピカ」である。
その可愛らしい響きと「乙女」という星座名からか『スピカ』という楽曲も非常に多く、スピッツ、Aimer、坂本真綾などが同名の楽曲を発表している。また、南ことりの『スピカテリブル』も、先ほどの『NO EXIT ORION』と同系統の楽曲で人気が高い。
さて、今日紹介するのは新田恵海の『スピカ』である。
この楽曲は、μ’s『Snow halation』に並ぶ完成度の高さを誇っていると言って良いだろう。さまざまな工夫が重なり合って、イントロからアウトロまで一貫して「遠いあの人を想って、夜の星空を一人見上げる」世界観を非常に美しく描き出している。
いくつか特徴を取り上げておくと、まず楽曲構成が独特で素晴らしい。通常の楽曲では、2番サビが終わって間奏・Cメロに入り落ちサビへ向かうという流れがとられるが、本曲では2番Bメロが終わった後にサビを飛ばして間奏に入る。感動的な楽曲になること請け負いの「2サビがない曲」である (有名どころではYOASOBI『夜に駆ける』, LiSA『炎』など)。2番Bメロが終わった後、サビを飛ばして間奏に入った後のライドシンバルの音が、Cメロ (* Bメロに近いが微妙に違う) への導入として非常に良い役割を果たしており、楽曲の大きなポイントとなっている。
他にも、イントロから曲の随所で認められる変則的なビートも印象的だ。ハイハットシンバルの代わりに、低くよく響くスネアドラムとタムで刻むビートのグルーブ感が、夜空を見上げる空気感を引き立てている。このテンポでのこのビートは他楽曲でも聴いたことがなく、何度聴いても新鮮だ。さらに、このビートが底流しているが故に、ラスサビでドラムを抑えた時の静寂がより際立っている面もある。
作曲は、声優アーティストに多数の楽曲を提供している音楽制作ブランド Elements Garden のサウンドプロデューサー・藤田淳平が担当した。このブランドは13名のクリエイターで構成されており、新田恵海のデビュー作『笑顔と笑顔で始まるよ!』のほか, Roselia『FIFRE BIRD』, 水樹奈々『Synchrogazer』の作曲で知られる上松範康や、南條愛乃『あなたが愛した世界』『黄昏のスタアライト』を作曲した藤間仁が所属している。
作詞は、唐沢美帆が担当した。新田恵海をはじめ多数のアーティストに詞を提供しているが、本職は歌手である。2014年からはTRUE名義でアニソン歌手としての活動も開始、2016年以降は5年連続でアニサマに参戦している。昨年のオンラインライブ「アニサマナイト」ではトリを務め、劇場版「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」の主題歌『WILL』, 「響け! ユーフォニアム」のOPテーマ『DREAM SOLISTER』などを披露している。
なお、この『スピカ』が2017年8月のライブで披露された際には、Acoustic ver. が採用された。この視聴動画には使われていないが、ライブでの彼女の歌唱力をぜひ一度体感して欲しい。
【1月17日(水)発売】新田恵海 LIVE 「Trace of EMUSIC ～THE LIVE・THE HISTORY～ 」
『スピカ』- 新田恵海
作詞：唐沢美帆
作曲：藤田淳平(Elements Garden)
Stay 静かにただ 触れていたい 遠い記憶
そう 疲れ果てた こんな夜は 会いに行こう
Feel それはまるで 胸に眠る 秘密のふるさと
煌めくのは 想い出のカケラ
どんなに急いで 時間(とき)だけが 過ぎ去っても
めぐる宇宙(そら)が いつも見守ってくれる
春の大三角には あなたがいるようで
白く光る 一番星 指でなぞった
ねぇ サヨナラが今も 美しいのは なぜ
それはきっと 二人だから
Close 星が星に 惹かれるように 流れていく
ただ 寄り添うように 照らしている 月明かり
Shine 忘れないよ ただひたすら 本音でぶつかって
泣いたことも かわいい想い出
あなたもどこかで おなじ星ながめてる
憧れてた かがやきの 向こう側で また逢える日まで
暗闇があるから 見える光がある
まだ知らない 道のさきで 答えが待ってる
ねぇ 始まりはいつも 少し 怖いけれど
空をみれば 一人じゃない
春の大三角には あなたがいるようで
白く光る 一番星 指でなぞった
ねぇ サヨナラが今も 美しいのは なぜ
それはきっと 二人だから
