ラブライブノート lovelive note

Lovelive is one of the best "art"s of Japan. どうか、多くの人に届きますように。

ここまで神々しい曲は初めてでした。内田彩さん・hisakuniさんの『声』。

 今からちょうど一年前、2020年3月4日に、ある二人のアーティストの集大成とも言える楽曲が発表されました。

 それは、hisakuniさんが作詞作曲された、内田彩さんの『声』という楽曲です。

  内田彩さんは「ラブライブ!」南ことり役の声優として一躍脚光を浴び、2014年11月に1stアルバム「アップルミント」をリリースしてアーティストとしてデビュー、現在は声優アーティストとして幅広く活躍されています。

 しかし、内田さんはデビュー当時、アーティスト活動に対して複雑な気持ちだったと言います。昨年の4thシングル「Reverb」(B面が『声』)発表時のインタビューで、内田さんは次のようなことを明かしています。

 私ってなんなんだろう? って思っちゃって。作曲家さんに曲を書いていただいて、作詞家さんに詞をいただいて。私はただ歌ってるだけなのにアーティストって言われちゃうと、何か違う気がしたんですよ。最初はどういう顔して出ていけばいいのかも分からなかったくらい。

 「この曲はどんな気持ちで?」って言われても、「えっと...作詞家さんの詞を元気に歌いました」くらいしか出てこない。そうなっちゃうと説得力がない気がして。アーティストって胸を張って言えない。そんな気持ちがありましたね……当時は。

 実際、声優の方がアーティストデビューをされる際、このような悩みに直面することは多いようです。同じく「ラブライブ!」で凛ちゃん役を務めた声優の飯田里穂さんも、インタビューで、初めてのレコーディング(1stアルバム内の『始まりたいカノン』)の際に、今までは凛ちゃんとして歌っている時間の方が「長いし、濃すぎて」自分で違いがわからず泣いてしまった、と話されています。

 内田さんは「ラブライブ!」以前の「キディ・ガーランド」からキャラクターソングに取り組まれていたということもあって、

私はやっぱり演じることが一番好きなので、歌うことでその子を演じきれるのが嬉しくて。セリフの延長線上にあるのが、キャラソンだと思っています

と語っていらっしゃいます。キャラクターソングへの愛が強い分、余計にキャラとして演じるわけではないアーティスト活動に難しさを感じていらっしゃったのでしょう。

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 そんな内田さんのソロ活動におけるターニングポイントは、2015年5月に行われた1stライブだったそうです。

ライブって会場まで足を運んでくださった方の顔が見えるじゃないですか。「この場を楽しんでくれてる!」ってみんなの表情が見えたときに、よかったなぁって思ったんです。なので、ライブがアーティスト活動の要というか支えになっています。

(中略)

役じゃない自分が自由にやっていることでみんなが盛り上がってくれている。私が好きに歌って、好きに表現していることを喜んでくれてるって凄いことですよね。

このことを知ることができてからですかね。あっ向いてるかも! って思えたのは(笑)。

4thシングル「Reverb」(B面が『声』)発表時のインタビューより)

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 ここから内田さんは、2015年7月に2ndアルバム「Blooming!」をリリースされたあと、2016年2月には2枚のコンセプトアルバム「Sweet Tears」「Bitter Kiss」をリリースされます。この背景には、2ndアルバムの最後に収録されている『with you』を作編曲されたhisakuniさんの存在が大きく関わっていました。

ライブでファンの方から元気やいろいろなものを受け取って、私が少しずつアーティスト活動に自信を持ててきた頃に、この歌を歌いたいって選ばせていただいたのが、hisakuniさんの曲だったんです。たくさんのデモ曲から選ばせていただくときも、ことごとくhisakuniさんだったり。

そんなことがたくさんあって、hisakuniさん大好き! みたいな(笑)。

私が好きな楽曲を選んで歌った時に、ファンの皆さんもそれが好きだって反応が返ってきた時が本当に嬉しくて。(私は)好きなことをやってもいいのかもしれない?って思った結果、コンセプト・アルバム(『Sweet Tears』&『Bitter Kiss』)が生まれたんですよ。

4thシングル「Reverb」(B面が『声』)発表時のインタビューより)

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 hisakuniさんはこのコンセプトアルバムで『絶望アンバランス』『Floating Heart』を提供したあと、『Everlasting Parade』『カレイドスコープロンド』『Yellow Sweet』の作詞・作曲を担当し、2016年8月の武道館公演を終えさらに加速していく内田さんのソロ活動を、楽曲面で大きく支えることとなりました。

 順調にソロ活動を続けていた内田さんですが、デビュー5周年を間近に控えた2019年3月に転機が訪れます。自身の所属レーベルであったZERO-Aの活動休止です。このときには、内田さんも複雑な感情で、「もうこのまま終わってもいいかな」とまで思ったそうです。しかし結果的には日本コロムビアから声がかかり、全く新しい制作メンバーと新アルバムに取り掛かることになります。このときのことを内田さんはこう語っています。

最初「これでいきたいです」と10曲ぐらいバンっと渡されたんですけど、今までとは雰囲気が違いすぎて、「はー! こういうの、やってなかったなあ」と思いました。だから「どうですか?」と聞かれたときに何も言えず、「あ、わかりました」と(笑)。 

「Ephmera」リリースに際してのインタビューより)

 そんな新しい楽曲が並ぶ新アルバムの中で、リード曲となったのはやはりhisakuniさん作曲の『DECORATE』でした。

この曲はhisakuniさんの曲なんですが、やっぱり個人的に好きと言いますか。初めての挑戦が多い中で、「hisakuniさんの曲、歌いたいな」みたいな思いもあって。それに、アルバムを聴いてくれるファンの方には「今までと全然違う!」と前向きに捉えてくれる人もいるだろうし、「あ、今まで好きだったテイストがなくなっちゃった」なんて思う人もきっといるかなと思ったので……安定のhisakuniさんの曲だとやっぱり安心するし、“私自身が好きな感じ=今まで聴いてきてくれてた感じ”だから、そこでホッとしてもらえるものがあるんじゃないかなと思って選ばせていただきました。「Ephmera」リリースに際してのインタビューより)


内田彩 - DECORATE (Official Music Video)

 こうして、新体制の下でもhisakuniさんと内田さんの強力タッグは続くこととなりました。

 そして、昨年の3月4日に発売されたシングル「Reverb」のB面に収録されたのが、hisakuniさんが作詞・作曲された『声』です。

 この曲は今までのクラブミュージック系からは大きく舵を切りながら、それでいてその空気感も残しながら、寸分の違いもないバランスで他の要素を取り入れ極致に達しています。歌詞・メロディ・歌声、その全てが重なり合って、とても美しく心に刺さる楽曲です。

 内田さんご本人も絶賛されていました。

今回、カップリングでこの曲を歌います!ってなった時に「もっとあたためて、別の機会にバーンってやらない?今、歌うの勿体ないよ!今、歌えるかな...?」って色々な思いが溢れてきちゃって...。それくらい神々しく感じたんですよ。

(ここ以降いずれも4thシングル「Reverb」(B面が『声』)発表時のインタビューより)

 実際に初めて『声』を聴いた際、私も今までの楽曲にはないような「神々しさ」を感じました。そこまでこの楽曲が響いてくる理由はたくさんあるのだと思いますが、一つ大きな特徴として、数多く、2番のBメロ終わりで盛り上がる予兆を見せた上で、サビに入らずにCメロで畳みかける点が挙げられます。初めて聴いた人には一気に心に飛び込んでくる構成でしょう。私自身、「震わせて」の「せ」で音階が下がらずに上がり音が伸びてこの構成を確信したときに、とてつもない衝撃を受けました。

 サビの展開も秀逸ですよね。曲の入りの「耳を澄ませて」の音程の上下には驚きました。そして、サビ終わりの「もう迷わないように」「誰かを灯せたなら」、まさにクライマックス、突き抜けるような声には感動を受けました。


内田彩 - 声 (Official Lyric Video)

 そしてこの楽曲は何より歌詞が素晴らしいです。歌詞の魅力は、内田さんがhisakuniさんとこの楽曲を創り上げていった過程を知った上で聴き直すと、よりくっきりと見えてきます。同インタビューで内田さんがこう語られています。

去年の末にhisakuniさんのお子さんがご誕生されたんですよ。お子さんの写真見て可愛いなぁってお話したり。自分のことのように嬉しかったんです。それで、「子どもが生まれた時に新しく自分の中に生まれた気持ちを曲にしてみました」と言われて届いたのが今回の曲で。

(中略)本番用の歌詞まで出来上がったデモが届いて聴いてみたら、「いい歌...」って涙がこぼれてきちゃいそうになって。

 また、内田さん自身がこの歌で大切なことに気づかされたとも語っていらっしゃいます。

(中略)私、みんなが求める内田彩像にずっと悩んでいたりもしてて。「声」を聴いたことで、あなたはあなたでいいんだよ。自分で自分の声を聞くことが大切なんだよって気付かされた気がします。うん。自分で自分を抱きしめるような感じ。

 これはおそらく、歌詞のこの部分から受け取った想いだったのではないでしょうか。

今の私が、今の私だから、
届けられる声があるって 思えるようになれたんだ

抱きしめ方も忘れちゃうくらい
遠ざけてたんだ 心の中の私を
強く抱きしめ やっと気づけた

「ほんとは、ほんとは、、、」
ずっとこうして欲しかったんだ

 この箇所は、『DECORATE』発表時の内田さんのツイートにもあった「今の私が、今の私だから」というフレーズが入っていることで、より沁みる歌詞になっています。

 さらに、内田さんは題名についても次のようなコメントを残されています。

じつはhisakuniさんから「タイトル『声』にしたいんですけど……」と相談されたんです。もちろん問題ないですってお返ししたんですけど。新しく5周年を迎える私の背中を押してもらえたような気がしていて。今まで5年間応援して来てくれた皆さんがいるから、自信を持って歩いて行こうって思える私になれました。そんな気持ちを代弁するような一曲になっていると思います。……でも無理なことはせず!

私だけじゃなくて日々頑張っている人たちに届く歌詞だなって思っていて。何か辛いことがあったら抗いたくなっちゃうじゃないですか。でも、無理はしなくていいんだよ、自分を大事にしていいんだよって。

 内田さんと長年制作を共にしてきたhisakuniさんだからこそ、自分の中に芽生えた新たな感情を、内田さんへのエールという形に変換して、それと同時に内田さんがファンにエールを届ける楽曲という形にまで昇華することができたんです。だから『声』という楽曲がここまでに「神々しい」曲になったのだと思います。

 最後に内田さんは、このようなメッセージを残していらっしゃいます。

「声」の歌詞に「例えばこんな歌が いつか 誰かを灯せたなら」というフレーズがあるんですけど、この曲を聴いた人がそんな風に思ってくれたらいいなって思います。

音楽活動の5年間、大変なこともたくさんあったんですけど、ライブで私を見守ってくれるみんなの笑顔に支えられてきたので。今までの私がギュッと詰まっている曲なので、じっくりと聴いていただきたいです。

 内田彩さんとhisakuniさんのタッグが、今後どんな楽曲を生み出してくださるのでしょうか。楽しみに待っていたいと思います。